こんなふうに、見つめ合って、微笑み合って、ずっとずっと想いを通わせることができたら……なんて夢見ていると――。

「お話し中に失礼。ちょーっと山下さんに相談があるんだけど」

「は、はいっ」

いつの間にか、会計伝票を持った三角さんが立っていた。

うわわわわっ、びっくりした。けど、三角さんでよかった。

「では、俺は実験室に戻ります」

「わかりました」

三角さんに軽く会釈してラボへ戻る先生を見送りつつ、ほっと胸をなでおろす。

「すみません。伝票の件で何か?」

「すっかりラブラブだわね」

「もう、いじめないでくださいよ」

ラボの中では三角さんにだけ田中先生とのことを話している。

今まで相談に乗ってもらっていたという経緯もあるし。

沖野先生にも知られているので。

「田中先生って、あんなふうにも笑うのねえ」

「え?」

あんなふうとは、どんなふう???

「すごく優しい顔してた。ラボでは絶対に見せない表情だわね」

「そうですか???」

「ほら、田中先生って笑うときはいつも控えめっていうか、自嘲気味っていうか。ちょっとぎこちない感じがあるじゃない?」

うーん、言われてみればそういうところはあるかも。

「でも、山下さんと話しているときの田中先生って表情が柔らかいのよねえ」

「私、気づきませんでした……」

異動してきたばかりの頃よりずっと笑顔を見せてくれるようになった気はしていた。

けどまさかその笑顔が、なんていうか……私にだけ向けられる特別な笑顔だったなんて。

ど、どうしようっ。

嬉しすぎて顔がにやけちゃうじゃないっ。

「三角さんっ。私の顔、大丈夫でしょうかっっ」

「あなたねぇ……」

大真面目で問う私に、三角さんは苦笑い。

「大丈夫よ。私が思うに、山下さんはあまり意識しないほうがいいんじゃない?」

「意識しないほうが、ですか……?」

「そう。あなた、みんなと仲良くやれてるんだから。変に意識して田中先生にだけ素っ気ない態度になるほうがよっぽど不自然だわ」

「なるほど……」

私がみんなと仲良くやれているかはともかくとして、気にしすぎて態度が不自然に見えたら元も子もない。

「山下さんは仕事に厳しい田中先生に気に入られるだけの働きをしてるって、ラボのみんなが認めているんだし。そのまま“お気に入り”におさまっていればいいのよ」

「そうでしょうか……」

「そうよ。自信持ちなさい」

なんだかちょっと気が楽になったみたい。そう、よい意味で適当に。

私はこれまで通り、自分の仕事に真摯に取り組んでいけば間違いないんだ。

「ありがとうございます。三角さんに言ってもらって元気でました」

「うん。ならよかったわ」

頑張ろう、頑張りたい。

恋ってすごい。

自信と元気が湧いてきて、どんなことも頑張れそうな気がした。