博士と秘書のやさしい恋の始め方

「田中先生、わざわざお呼び立てして申し訳ありませんでした。くれぐれもよろしくお願いしますね」

「はい……」

「沙理は、昼休みの部活を忘れないこと」

「はい……」

あれれ、なんだか私まで一緒に怒られているみたいな図?

そうして、美緒は職務をバシッと遂行して去って行った。

「美緒……えーと、藤田はいつもあんな感じなんですか?」

「怒られてばかりです。自業自得なんですが」

うーん、いつもあんなふうにお小言を言われて絞られているとは。

田中先生、きちんと謝っていたなぁ。

ああいう場面って「つまらない事務を研究者にさせるとは言語道断」なんて、逆切れしちゃう先生とかもいるのだけど。

田中先生はそうじゃなかった。

事務をバカになんてしていないし、秘書のことだって……絶対に見下してなんていないと思う。

「ところで。その段ボールは……?」

「え?」

あああああっ。私ったら、段ボールに入ったままじゃない……。

これじゃあ、電車ごっこでもするつもりの子どもみたい。あらためて、恥ずかしい……。

「こ、これはですね……えーと、ラボへお持ち帰りしようかと思いまして」

「そうですか。もう戻りますか?」

「えっ。はい、用事はすみましたので」

「持ちます」

「ええっ」

なんですとっ!? 思いがけない申し出に、あからさまに戸惑う私。

「で、でもっ」

「持ちますから。早くラボに戻りましょう」

「は、はいっ」