博士と秘書のやさしい恋の始め方

今日ほど「相対性とはこういうことか」と思い知らされた日はないだろう。

楽しい時間は瞬く間にすぎ、別れのときがやってきた。

もちろん、また明日ラボで会えるわけだが……。

それでも離れがたいのだから仕方がない。

シートベルトを外した彼女は、ゆっくりと俺のほうへ向きなおった。

「今日はありがとうございました。とっても、とっても楽しかったですっ」

「俺のほうこそ」

こんなに楽しい日曜日は何年ぶりだろうか。

「なんか、どうしても名残惜しくなっちゃって。ダメですね、私」

彼女はちょっと困ったように淋しげに笑った。そんな顔をされたら、むしろ俺のほうが困るじゃないか。

「ダメなんかじゃないです。俺なんて――」

もう少しだけ――いや、もっと一緒にいたい。

帰したくない……そんな衝動にかられた。

できることなら、いっそ――。

「あなたをこのまま連れ去りたい」

勢いにまかせて言ってしまった、偽らざる気持ちを。

しかしながら、本気の本心ではあっても、本当に実行しようなんて気はなかった。

もちろん、いずれはそうしたいと思っているが……。

そもそも、明日は平日で互いに普通に出勤だしな。

本心とはいえ、不用意にこんなことを言ってしまい、彼女を困らせしまっただろうか。

「すみません、スルーしてください……」

「連れ去ってくださいっ」

「(えっ……)」

彼女は真剣な眼差しで俺を見つめた。

そして――。

「先生のおうちに連れていってくれませんか、この子」

「はぁ……」

俺の前に差し出されたのは、ミュージアムショップで買ってきたミトコンドリア。

山下さん、これはいったい……。

「できれば、先生のおうちに置いておいてもらえませんか?」