博士と秘書のやさしい恋の始め方

まさか唐突にそんなことを聞かれるとは思わなかった。

というか、神林さんがそれを知っていたのが驚きだった。

「オレもさ、祖父ちゃん祖母ちゃんに育てられたんだよ」

神林さんは「おまえもそうだって、先生からちらっと聞いてさ」と、ぼそりと言った。

俺が神林さんの境遇を知ったのは、そのときが初めてだった。

そして、自分の境遇を自分から誰かに話したのも。

それが大きなきっかけとなり、神林さんと俺は親しく交流を持つようになった。

先輩後輩として、またときには友人として、そして――ある種の同士として。

その交流は有難いことに途絶えることなくつづき、こうして今に至っている。

「結婚っていいぞー、月並みな言い方だけどさ」

「どうしたんですか、今日は惚気放題ですね」

「おまえも大丈夫だよ」

「え?」

「オレだってどうにか父親できてんだから」

まったく、この人には敵わないな……そう思った。

「わかるよ、オレ。おまえが感じる漠然とした不安とか、自信がもてない感じとかさ。けど、なんとかなるもんだよ」

「なんとかなる、ですか……」

それは少々楽観的すぎる気もしないでないが……。

しかしながら、神林さんは自信満々の顔で言った。

「そっ、なんとかなる。夫婦のことにしても、子どものことにしてもさ。なんとかしたいと思って誠実に向き合っていればなんとかなる。これ、本当だぜ?」

「そういうものでしょうか」

いまいち素直に同意できない俺を見て、神林さんは朗らかに笑った。

「こういう言い方もあれだけどさ、真面目に努力していれば周りが自然となんとかしてくれる。なんとかなっていくもんだから」

「それは――」

「オレは親の愛ってのをよく知らないで育ったわけだけどさ。それでも親になれたよ。薫と駿がオレを父親にしてくれた。だから、おまえも大丈夫だ」

「俺も大丈夫、ですか……」