博士と秘書のやさしい恋の始め方

他にも、ファージだのゴルジ体だの仲間(?)がたくさんいるようだが、こういったものをぬいぐるみにするセンスに脱帽だな。

まったく、山下さんの趣味にぴったりじゃないのか? 

俺は、興味津々の様子でぬいぐるみのサンプルをあれこれ手に取っている彼女に聞いてみた。

「どれがいいですか?」

「えっ」

「好きなものを買ってかえりましょう」

「で、でもっ……」

俺の申し出に、彼女は嬉しいような困ったような複雑な顔をした。

遠慮深い彼女らしい反応だ。

でも、俺が買ってあげたいのだがら譲れない。彼女を動かす秘策もある。

「これ、おそらくここでしか買えないと思いますよ。だから、せっかくですしどれか買っていきましょう。ひとつに決められないなら全種類買いましょうか?」

「ええっ、そんなの悪いですっ。えーと、えーと、それじゃあですね……」

秘策は功を奏し、彼女はぬいぐるみを選び始めた。

ああいう言い方をすれば彼女はこたえてくれると思ったからな。

なにしろ「限定」という言葉に弱いようだし、自分のせいで全種類お持ち帰りなんてことになったら恐縮するに決まっている。

少々意地悪をした気もするが、まあいいだろう。

「やっぱりこれがいいです」

「わかりました」

迷ったすえに彼女が選んだのは最初に手に取ったミトコンドリアだった。

「内側の棚っぽくなってるところが気に入ったので」

「なるほど」

気に入るポイントがそこというのが、俺にはいまいちよくわからないが……。

ともあれ、お気に入りが見つかって何よりだ。

ビニールでパッケージされたミトコンドリアの山の中から、綻びのなさそうな良品をひとつ選んだ。

「今度はあちらのほうを見てみましょうか」

俺は先ほどから気になっていた地質学のコーナーを指さした。

彼女の買い物につきあうつもりが、気づけば俺が夢中になっているという……まったく、我ながら理科系のオタクぶりにも困ったものだ。