博士と秘書のやさしい恋の始め方

温かくて柔らかな彼女の手。

その手に触れた瞬間、彼女はほんの少しだけ驚いたように俺を見た。

けれども、こちらを見たのは一瞬で、にっこり微笑むとすぐまた夜空へ視線を戻した。

そうして――ただ黙って、重ねた俺の手をさらに包み込むようにして握ってくれた。

なんだろう? とても不思議な感覚だった。

先ほどから胸にくすぶっていた言い知れぬ淋しさが、あっという間に消滅した。

心が満たされたというか、和らいだというか、或いは――こんな表現はおかしい気もするが、許されたというか。

とにかく、とても安らいで幸福だった。

彼女ともっと一緒にいたい。心からそう思った。

もっと、ずっと、いつまでも。

俺は、隣に寄り添う彼女の優しい気配と、その手のぬくもりを感じながら、美しく広がる星空に遥かなる夢を投影した。

プラネタリウムが終わった後も、ずっと手はつないだまま――。

「ミュージアムショップに寄ってもいいですか?」

「もちろん。確か正面入り口の近くでしたね。行きましょうか」

恥かしげもなく彼女の手を引いて歩く自分が、なんだか妙におもしろく清々しかった。

「うわー、なんかめずらしい物がいっぱいありますよ」

「確かに……」

俺は天井からつるされたペーパークラフトの人体骨格模型をしげしげと眺めた。

ここは普段からこういった品ぞろえなのだろうか、それとも今やってる企画展示に合わせているのか。

彼女はワゴンに山盛りになっているぬいぐるみが目に留まったらしい。

「先生、これって……?」

「あぁ、ミトコンドリアですね」

「あ、生物で習った気がします」

彼女が手に取ったのは、紛れもなく生物の教科書にも出てくるあのミトコンドリアだった。

「おおーっ、パカッと半分に開いて断面が見られるようになってるんですね。あ、中には棚みたいのがいっぱいあるんだ。勉強になりますね」

勉強になる、か……。