博士と秘書のやさしい恋の始め方

どこか懐かしそうに目を細める彼女の視線の先には、元気いっぱいの子どもたちと、それを見守る父親と母親の姿があった。

「確か、弟が行きたいってしつこくせがんで。結局、両親と姉と私と弟と家族五人で出かけたんです。私は小学校の高学年で、姉はもう中学生だったんですけどね」

幸福な子ども時代に思いを馳せる彼女の隣で、俺は淋しかった小学生の自分を想った。

俺には両親と一緒に家族で出かけた記憶がない。

思い出せないだけで、幼稚園の頃はあったのかもしれない。

あったはず、いや……あったと信じたい。

しかしながら、小学生以降は明らかに皆無だ。

今、俺と彼女は同じ風景を見ているのに、そこから想起される思い出の風景はまるで違うのだろうな。

「あ、始まるみたいですねっ」

「そのようだ」

アナウンスとともに場内が暗くなり、映し出された夕日とともに空が黄昏色に染まっていく。

「わあっ、日が暮れるところから始まるんですね」

キラキラと目を輝かせ、これから始まる星空の旅に子どもみたいに無邪気にはしゃぐ山下さん。

隣にいるのに、こんなのに近くにいるのに……胸に去来する淋しさが、ぼんやりと彼女を遠く感じさせる。

あっという間に太陽は沈み、空は夜一色に早変わり。

月が輝き、星々が瞬く、どこまでも遠く美しい幻想的な世界。

隣では山下さんが満点の星空にすっかり魅了されている。

彼女が喜んでくれて嬉しい。

なのに、このぼんやりとした淋しさはなんだろう。

柄にもなく感傷的になった俺は、歯がゆいような切ないようななんとも言えない気持ちで、夜空に見入っている彼女の手をそっと握った。