博士と秘書のやさしい恋の始め方

いつもそうだが、山下さんと話していると話題が尽きることがない。

正直、俺は話し上手でもなければ話題が豊富な男でもない。

仕事で専門的の話をするならともかく、普段のいわゆる世間話では間ををもたせるのが下手だ。

しかしながら、山下さんとは気づまりすることがない。

ひょっとしたら、ふがいない俺のために彼女は頑張ってせっせと話を振ってくれているのでは? などと考えたこともあった。

けれども、それは俺の杞憂だった。

いくら空気が読めない察することが不得手な俺でも、彼女の表情を見ればわかった。

彼女が俺と同じ気持ちでいてくれることが。

同じように楽しんで、同じように寛いでくれていることが。

本当に彼女といると時間を忘れてしまう。

まさに「相対性」。

大げさなようだが、彼女とすごす一時間は俺にとってはほんの何分間のように感じられるのだから。

他愛のない話で盛り上がるうちに、俺たちはあっという間に目的地に到着した。

チケットを見せて会場内へ入るとすぐ、人間の口を模した大きなゲートのお出迎えときた。

さあ、ここが旅の入り口だ。

「私たち、さしずめ食物ってことでしょうか」

「そう、俺たちは口から入って消化されて血となり肉となり、最終的には排――」

「みなまで言わなくていいですっ」

しかしまあ、こう言ってはなんだが山下さん好みの企画だな……。

おそらく、ちょっと奇妙でマニアックなものでもドンと来いの好奇心旺盛な彼女を十分楽しませてくれるに違いない。

「先生」

「なんだろう?」

「現在ワクワク中です」

真剣な表情で現状報告をする彼女に、まんまと笑いを取られた。

彼女と知り合ってから、俺はよく笑うようになった。

いや、素直に笑えるようになったというべきか。

「ではワクワクしながら入りますか、“体内”に」

「はいっ」

そうして俺たちは、人体という名の奇跡の宇宙の旅に出た。