博士と秘書のやさしい恋の始め方

想定内の雨模様、彼女はどんな気持ちで俺を待っているのだろう。

とりあえず、雨でほっとしているとか? 

晴れだったら湖に連れて行かれかねない、などと妙な心配をしそうだしな。

彼女のあれこれを考えると楽しくて、おかしくて、思わずくすりと笑みがこぼれた。

まったく、いい歳をした男が車の中でひとりでニヤニヤして、どうしようもないな。

マンションの入り口に彼女の姿を見つけたとき、なんだか少しほっとした。

そして、俺を見つけて力いっぱい手を振る彼女を見たら、今度は嬉しさがこみあげた。

ニコニコ顔で車に乗り込んできた彼女は、挨拶もそこそこに満面の笑みを浮かべて言った。

「雨ですね」

一応今日は俺たちの初デート、ということになるわけだが……。

「ヨッシャ!」と言わんばかりに雨降りを喜ぶ彼女が、おかしくてたまらなかった。

「そうですね。おそらく今日は一日中雨でしょう」

絶好の雨の中(?)、あなたが行きたいところへ出かけましょう。

ま、この天気では車がキレイでもそうでなくてもあまり関係ないし、俺にとっても都合がよかったか。

まずは一番近いコンビニで飲み物やらなんやらを調達し、準備を整えた俺たちは機嫌よく出発した。

「先生って、車の中では煙草吸わないんですね」

「あぁ、車にこもった煙草の匂いって嫌なんですよ。ドアを開けた瞬間のあの感じがどうにも……。バカスカ吸うくせに自分でもおかしいと思うのですが」

「やめようとは思わないんですか?」

おっと、そう来るか……。

山下さんは煙草を吸わないしな。

禁煙をすすめる人々は正しい。

煙草なんて、体にいいわけでなし、安い買い物でもなし、いいことなんてないからな。

ただ――。

「やめられるものならとは思いますよ。それでも、今のところはストレス解消の必需品みたいになっていて……難しいです」

意志の弱い男と思われただろうか? 

まあ事実だし、そう思われてもやむなしだが。

「それじゃあ、急にすっぱり止めるのは無理だとしても、節煙から始めるというのはどうでしょう? 先生は節煙、私は節チョコです」

「は?」

セツチョコというのは、チョコを節約するということか?

「だってほら、先生にだけ我慢を強いるなんてちょっと卑怯くさいじゃないですか。言われたほうは“言うは易しだよ”って思っちゃうでしょ? ですから、私もおつきあいしますから一緒に始めませんか?」