休日だというのに、昨日につづいて今日もまた雨とは。

それでも悪い気はしなかった。

これから彼女に会えるのだから。

それにしても――昨日は本当に驚いた。

まさか、あんなところで彼女に遭遇するとは。

武道場の玄関で周と話す山下さんを見たとき、一瞬だが頭が混乱した。

俺が彼女のことばかり考えていたからか? 

妄想か、幻覚か? 

そんなことが頭をよぎった。

けれども、彼女は正真正銘の本物の山下さんだった。

俺は彼女と縁がある。

周が言うことを素直に認めるのは少々悔しい気もするが、奴の言うとおりだと思った。

神様が俺の背中を思いきり強く押しているのだ、と。

そして、縁という名の嬉しい偶然に鼓舞されて、彼女とあらためて気持ちを確認し合うことができた。


彼女を家に送るまでの間、車の中でたくさん話しをした。

「そういえば、武道場の前なんかでいったい何をしていたのですか?」

「それはですね、看板を見ていたんです」

「看板?」

「そうです。あの“桂林館”と書かれた看板です」

確かにあの武道場の建物は桂林館という名称で、わりと立派な木の看板がかけられているが。

なんでまた?

「とってもいい字だなぁって気になって、近くで見てみたくなって。それで……」

「なるほど」

山下さんは書道をやっているからな。

三角さんからの情報によると、腕前もたいしたものだというし。

俺は看板の文字に目が留まることなどないが、彼女のそういった物への眼差しに感心した。

そして、周がやけにニコニコ話していた理由を理解した。

「周のやつ、喜んでいたでしょう?」

「え?」

「聞いてないんですか? あの字を書いたのはあいつだって」

「えっ!?」