博士と秘書のやさしい恋の始め方

正直、わからなかった。田中先生をそこまで毛嫌いする理由が。

そりゃあ確かに持田さんが言ったとおり、字は汚くて、デスクは散らかり放題だけど。

でも、話し方は基本的に敬語だし。

態度だって、愛想がいいとはいえないにしろ横柄なところなんてまったくないし。

「ま、仕方がないっちゃ仕方ないんだけどね」

「そう、なんですか……?」

仕方がないなんてことあるのかな?

田中先生がそこまで嫌われる理由なんて見当たらないのに。少なくとも、私には。

「モッチーにはモッチーなりの深い事情があったわけよ」

深い事情っていったいなんだろう? なんか……すごく気になる。

その事情とやらを聞いてみたかった。でも、どうやら今は時間切れ。

三角さんのスマホのタイマーがピピピピピッと、解析作業の終了を知らせた。

「おっ、と……はいはい、時間ね。それでは私は実験室へ戻ります、と」

「ああっ、三角さんっ」

「うん?」

「白衣の回収箱なんですけど、実験室に置いて問題ありますか? あと、今より少し大き目の箱にしても?」

「すべて問題なしよ」

「それじゃあ――」

「あなたにまかせるわ」

「わかりました」

「サンキューね」

三角さんはにっこり笑うと、軽やかな足取りで実験室へ戻っていった。

秘書の仕事って、その響きとは裏腹に地味で小っさいことばかり。

だけど――それでもやっぱり、私はこの仕事が好きだなって。

このラボで私にできること、頑張りたい。