いろいろネガティブなことを考えたりもするけれど、私はやっぱり先生と一緒にいたいのだ。

「いっぱいあります、時間」

先生と一緒にいるための時間なら、いくらでも。

嬉しさいっぱいで答える私に、先生は少しほっとしたような表情をみせた。

「よかった。それじゃあ少し中を見学していきますか? といっても、稽古も終わって誰もいませんし。これと言って珍しい物や面白い物は何もないのですが」

「ぜひぜひ、見学させてください」

この際なんでも見学しますという勢いだった。もう、床でも畳でもなんだって。

けど、何より一番見学したいのは、やっぱり――休日をすごす田中先生の姿だ。

ラボでは見られない先生の表情、しぐさ、話し方……そのすべてをつぶさに観察したかった。


中に入るとすぐ下駄箱と簀子(すのこ)があって、まるで小さな田舎の小学校みたいだと思った。

武道場の広さはちょうとバスケットボールのコート一面分くらいだろうか? 

半分が畳敷きになっていて、もう半分は普通の体育館床になっている。

建物の上部にたくさん窓はあるけれど、曇り空では日も射さない。

高い天井に独特の湿り気を帯びた空気。

裸足で歩く袴姿の先生の後を、私はあたりをきょろきょろしながらついていった。

「弓道場は建物が別なのですが、奥の通路でつながっているんです」

「そうなんですね」

先生はおもしろいものは何もないみたいに言っていたけれど、普段こういった場所に来る機会のない私にとっては十分におもしろみのある社会科見学だった。

しんと静まり返った薄暗い屋内の中ほどまできたところで、先生は立ち止まり徐に振り返った。

「さて、どうしたものか」

「えっ」

どうしたものかと言われても……。

ドキドキしていた、とても。

だって、先生があまりにまっすぐ見つめるから。

静かで穏やかなようでいて、私を鋭くとらえて離さない先生の眼差し。

なんだかもう、心をまるごと透視されてしまいそう。

心の内の切ない問いかけを先生に聞かれてしまいそう。

そんな錯覚に胸がきゅんと熱くなる。

先生はどういうつもりで私を引き留めてくださったのですか? 

先生は私を――どう、したいのですか?

「そうだ、せっかくなので――」

「はいっ」

ドキドキで頬が上気するのを感じながら、私はおずおずと先生を見つめた。

「技でもかけてみますか?」

「へ?」