少し空模様があやしくなっていたけれど、せっかくなので予定どおり神社でお参りをしていくことにした。

恋愛成就を祈願したいところではあったのだけど、自己紹介やら日々の感謝だのを申し上げているうちに長くなって、なんだかわけがわからなくなってしまい……結局は“世界平和”を願って一拝した。

まあ、私も世界の一部ということで……(かなり強引?)。

天気予報によると、今日の天気は曇りのち雨。時間帯ごとの予報をみても晴れマークはひとつもなかった。

だけど、予報に反して美緒の結婚式の間だけはずっと明るい晴れ間が見えていた。

まるで神様の祝福のように、いつも頑張っている彼女へのご褒美のように。

けれども、結婚披露宴も無事にお開きとなったわけで、ご褒美タイムもそろそろ……。

お参りもできたし、雨が降り出すまえに帰らなきゃ。

本音を言うと、私が家に帰りつくまでお天気をもたせていただけると助かるのだけど。

まあ、雨だって降らないと困るものね。

荷物も荷物だし、ちょっと疲れも出ていたし、タクシーを拾える大通りに出たい。

私は重たい引き出物を持って、履きなれないヒールの靴で石畳の道をこつこつ歩き始めた。

それにしても、こちらの神社の広いこと。

結婚式場だけでなく幼稚園もあるようだし、郷土資料館みたいなものもあるらしい。

私、けっこうな方向音痴なのだけど……迷わずここを出られるだろうか。

パンフレットの案内図を頼りに歩いていく途中で、とある建物が目に留まった。

正確に言うと、目に留まったのは建物の外観ではなくて出入り口に掛けられた木製の看板だった。

案内によると、ここは弓道場と武道場らしい。

そして、看板によると建物の名前は“桂林館”。

その伸びやかな字に、なんだかとても心惹かれた。

あたりは静かで、とりあえず建物の中からも人の気配や声はない。

私はもっと間近でよく見たくて、武道場の入口へ近づいた。

この木の材質はなんだろう? あまり自己主張の強くない控えめな木目だ。

それにしても――近くで見るとますますいい。

私はずっと書道をやっているわけだけど、だからといって字の良し悪しを客観的に評価できるわけじゃない。

まあ、プロでもないし教える立場でもないし当たりまえだけど。

けど、やっぱり好きな字というのはある。

好みだなぁとか、素敵だなぁと思える字が。

この看板の字は、どんな人が書いたのだろう? 

豪快な力強さではなくて、しなやかな快活さと柔らかな繊細さを感じる字だと思った。