博士と秘書のやさしい恋の始め方

理系の研究所というと、白衣の人がうじゃうじゃいて所内をウロウロしているイメージを持たれがちだけど、実際はそうでもない。

ドラマに出てくるような大病院での白衣がユニフォームなら、ここでの白衣は作業着。

お手洗いや煙草などのちょっとした用事はともかくとして、基本的に実験室以外の場所で着っぱなしということはない。

「先生方も、わざわざここに白衣を取りに来たり出しにきたりしてるわけですよね?」

「そうね。そうしてると思うわ」

「テクニカルさんの居室にあるメリットって……」

「無いわね」

どーん……。そっか、やっぱり「なんとなーく」ここにあったわけね。

「あ、違う。ひとつだけメリットがあったわ」

「え?」

「モッチーが楽だから」

モッチーとは言わずとしれた持田さんのこと。

「実験室まで行くのが億劫だったんでしょーよ。あの子、横着だったから。“実験室の臭いがダメで~”とか言ってたけど、結局めんどうくさかったんでしょ」

「ええっ、そういう話ですか!?」

「そういう話よ」

なんですとっ!? 

そりゃあ実験室は居室から少し離れてはいるけど。同じフロアだし、歩いてすぐでしょ。

週一回、白衣の入った段ボールを廊下に出したり元に戻したりするくらい大した作業じゃないじゃない。

「あの子、ほんとさっぱり実験室にはよりつかなかったからねぇ。まあ、田中先生は向こうのデスクで作業してることが多いから。嫌だったんでしょ」

「そこまで嫌いって……なんかすごいですね」