博士と秘書のやさしい恋の始め方

「だから、私はちっとも優しくなんてないんです。ただの……ずるい人間です」

とてもじゃないけど先生の目を見ることなんてできなくて、うつむいて目を伏せたまま一気にしゃべった。

「でも、それだけじゃないでしょ?」

その優しげな声におずおずと顔を上げると、先生が静かに私を見つめていた。

その眼差しは冷静でいてどこか少し熱っぽく、私の心をきゅうっと熱く締め付けた。

「彼らを助けてやりたいと思ったのも本当ですよね?」

「それはそう、ですけど……」

「優しくない人はそんなふうには思わない。あなたはいつだって、皆の為に自分にできることはないかと探している」

泣きそうになった。どうしよう、もう泣いてる。

滲んだ涙がこぼれないようにこらえると声が出ない。

無理に喋ったら声がふるえてしまいそう。涙までふるえ落ちてしまいそう。

「優しいのは、あなたの長所ですよ」

「そん、な……こと……」

涙声でうつむく私の肩に先生の大きな手が触れた。

「そんなことありますよ」

「でもっ……」

「しいて短所をあげるとすれば――」

そっとすっと引き寄せられて、頭がこつんと肩口に……。

私はもたれかかるようなかっこうで、そのまま黙って先生にからだをあずけた。

「短所は、優しすぎるところだ」

先生はふんわりと私を包み込むように抱きしめた。

先生のほんのり甘い煙草の匂い。
温かい胸。
大きな手。

その温もりに抱かれて、その優しさに包まれて、私はちょっとだけ泣かせてもらった。

「すみません、白衣汚れちゃいますね……」

「作業着ですから」

「作業ですか……」

「言葉尻を捉えるとは意地の悪い。ま、元気がでてきたようで何よりか」

先生はまるで子どもをあやすみたいに私の背中をとんとんしながら、ときどき頭を撫でてくれた。