博士と秘書のやさしい恋の始め方

三角さんは女性のテクニカルさんで、古株のフタッフのうちのひとり。

ラボの変遷はもちろん人間関係を含むイロイロまで、ラボのことをそれはそれはよく知っている。

「ラボでわからないことは三角さんに!」という具合に、私は初日からすっかりお世話になっていた。

「まえは今ほど人がいなかったからね。ここの研究棟に越してくるタイミングで古賀先生が来て。テクニカルやRAも増えたりして。今は先生方とテクニカルの居室って分かれてるけど、むかしはひとつだったのよ」

「なるほど、そうだったんですね」

で、人が増えてクリーニングに出す白衣が増えても箱はそのまま、と……。

ちなみに、RAというのはリサーチアソシエイトのこと。

うちのラボの場合は全員が外国人で、母国に帰れば大学院生という人がほとんど。

技術支援や共同研究先との協力といった意味合いで、学生さんをお預かりしているのだという。

ところで、前任の持田さんは秘書の仕事があまり好きではなかったらしい。

それは引き継ぎでこちらへ来たときすぐにわかった。

彼女の話しぶりもさることながら、ラボのあらゆるところで行き届いてない点が目についたから。

掃除もサボりがちなのバレバレだったし。

それにしても、汚れた白衣を入れるこの箱って――。

「三角さん。私、素朴な疑問なんですけど」

「ん?」

「この箱の定位置、なんでここなんですかね?」

ここにあると見苦しいうえに完全に邪魔になってるし。

それに、白衣をかけておくハンガーラックも脱ぎ着するスペースも実験室にあるのに。

なぜここに?