博士と秘書のやさしい恋の始め方

備品リストをやっつけてしまおうとPCの画面に向かっても、結局なんだか手につかない。

もう定時はすぎたし、帰ろうか? 

いや、せめてこれだけは片付けていこう。

でも……気持ちがなかなか切り替えられない。

「チェック漏れがあったので、もう一度備品庫に行ってきます」

うそだった。

私は不備のないチェックリストを持って、逃げ込むように備品庫へ行った。

奥の壁によりかかり、がっくりうなだれ溜息をつく。

本当にもう、自分の思慮の浅さに嫌気がさす。
本当に情けない。

ご迷惑をかけた秘書さんにも謝らなければ。

それに、うちのRAの皆にも……。

彼らが処理の難しさに困っていたのは事実だし、それを見かねて手をだしたというのも本当。

伝票締日が迫っていたのでそれに間に合わせてあげたい気持ちもあった。

処理が遅れるということは、それだけ本人口座への入金も遅れるということ。

RAの中にはギリギリの生活費で頑張っている人もいる。

とくにこの間の旅費精算は宿泊費の精算などもあって、よくある近地の交通費精算とは違って少し立替金額も大きかったし。

処理も少し複雑だった。

でも、だからって……。

私のしたことは、本当に純粋な親切心から? 本当にそれだけ? 

考えれば考えるほど自分で自分が嫌になり、私はさらに大きな溜息を深くついた。

そのとき――。

「(誰だろう?)」

備品庫のドアを静かに叩く音がした。

ひょっとしたら、古賀先生? 

さっき気にかけてくださっているみたいだったし。

でも――。

「あっ……」

「少し話をさせてください」

そこにいたのは白衣を着た田中先生だった。

先生は私の返答などはかまわずに、ドアを閉めて素早く中へ入るやいなや、ずんずん早足で私の目の前にやってきた。

壁を背にしてまるで追い詰められたみたい。

先生、きっと布川先生から話を聞いてるはずだもの。

幻滅、してるよね……。

自分が蒔いた種とはいえすごく辛い。

「あの、私……」

「申し訳ない」

「え?」