困惑する私を見て、美緒は目を伏せてぼそっと謝った。

「なんかさ、沙理がいつまでもうじうじと煮え切らないから少しイラッとしちゃって。ほら、私って気ぃ短いからさ」

そうして美緒はきまり悪そうに微笑んで、晴れ渡る青空をまぶしそうに見上げた。

「沙理は不安なんだよね。確かな言葉が欲しいんだよね。それに、職場でごたごたなんて怖いしさ。そりゃあ慎重にもなるよ」

自分のひとりよがりじゃないという自信がもてなくて。

もう、みじめな独り舞台は嫌だから。

遊佐先生のときのような虚しい思いは嫌だから。

あんな傷つき方はもうしたくはないから。

だから、だからって――。

「私、ずるいね……」

「そうでもないよ。沙理クン、女というのはそういう生き物であるよ」

美緒は誰のまねだか知らないけれど、おどけて言ってニコッと笑った。

「けどさ。このままでいいの? 沙理はどうしたいの? 田中先生とどうにもなりたくないの?」

「それは……」

「今んところ田中先生の隣は空席だけど、ずっとそうとは限らないんだよ? 他の誰かがひょいと収まっても平気?」

田中先生が他の誰かと……。

私が考えないように考えないようにと、いつもフタをしていること。

今のぬるい関係が心地よいのは、田中先生がフリーだから。

そして、オンリーワンでないにしろ、おそらく今の時点では、自分は先生にとってけっこう親しい女性であるという感触があるから。

「今の“お友達”な関係は楽かもしれないけどさ。彼女ができても変わらずに“お友達”でいてくれたらいいの♪なんて思ってないよね?」

「そんなことっ……」

美緒の言葉はかなりグサッときた。

田中先生の彼女公認のゲーム友達? 

嫌、そんなの嫌。
そんなの望んでない。

「田中先生に彼女ができるのは嫌。かといって、自分が勇気だして名乗りを上げるのも嫌? それはちょっと厳しいかもしんないよ」

「そうだよね……」

「でもまあ、あれだよ。今んとこは女の影はないわけだし。先生のほうから告ってきてくれる可能性もじゅうぶんある気するし。頑張りなはれや」

「ん。ありがと……」

私は美緒の励ましにこくりと頷き、うつむいたまま、ストローをさしたイチゴオレをちゅーっと吸った。