博士と秘書のやさしい恋の始め方

新しいラボに来てからしばらく――。

私はルーティンの秘書業務をこなしつつ、ラボの環境整備に没頭していた。

「増えすぎたワカメちゃん……?」

月曜の朝、私はテクニカルさんたちの居室で唖然とした。

くったりした白衣たちが、段ボール箱からだらしなーくあふれ返っている光景……。

びろーん、べろーん、くた~っ。

ナントカ百景にこそ登録ならずだけど、あまりにも残念なその様子に、なんとも言えない気持ちで首を傾げる。

あぁ、これって便利な乾燥ワカメを水で増やし過ぎちゃったのと似てるかも。

あらあら~、ボールからワカメがあふれ返ってさあ大変!みたいな。

「これって、毎週こんな感じなんですか?」

「あぁ、それね。月曜の朝はいつもそんなよ」

テクニカルスタッフの三角(みすみ)さんは、コーヒーを飲みつつさらっと言った。

白衣は汚れたらクリーニングに出せるシステムになっていて、業者がくるのは週一回。

クタクタ白衣の回収とピカピカ白衣の納品は月曜の午前中。

回収に乗り遅れないように金曜の夜までには所定の段ボールに入れておきましょう、と。

そのルールに従えばこうなることも致し方ない? いや、だってそもそも――。

「この箱、小さすぎますよね?」

「そうねぇ。かなり前からそのままだからね」