私がいた場所。



それは突然だったのだ。
言い訳にしかすぎないと思うだろうが本当に、突然で、誰もその日だとは予想できなかったのだ。
「あれ?山南さんは?」
「え…?」
夕餉時になっても姿が見えないことに気が付いたのは平助さんだった。

嫌な予感がして私は山南さんの部屋に真っ先に向かった。きっと寝てしまっているだけだ。そう思って襖の奥にむかって声をかけた。
「山南さん、夕餉時ですよ。…山南さん?」
声はおろか音一つ聞こえなくてじわりとまた不安が大きくなる。
「山南さん?入りますよ?」
ゆっくりと襖を開けてもそれには何もなかった。いや、むしろ無さ過ぎた。いつもは資料や書類でいっぱいなその部屋は綺麗に片づけられていてまるで…。
「椿!!山南さんは!?」
後から来た平助さんの声ではっとする。
「い、ないの…」
「…門限はとっくに過ぎてるっていうのに。山南さんが隊規を忘れるはずもねぇし…」
「隊規破りは切腹…」
信じたくもない現実を目の前にたたきつけられて頭の中がぐわんと揺れた。

みんなのいる部屋に戻ると沖田さんが外に出る準備をしていた。
私は彼の部屋で見つけた手紙を厳しい顔をしている土方さんに渡した。
「山南さんの部屋にこれが…」

『江戸へ向かいます』

これは新選組脱退の意を示すものだった。
「総司…行ってくれるな?」
「はい」
「っ…まってください!私もっ、私にも行かせてください!!」
土方さんの厳しい目にたじろぎつつも一歩前に出た。目を伏せた彼はしばらくすると頷いてくれて、私と沖田さんはすぐ門を出て馬に跨った。
原田さんの気を付けろよ、という声にしっかり頷くと沖田さんを追いかける。
「椿」
風に乗って前を駆ける沖田さんの声が聞こえてくる。
「ここをまっすぐ進んで行くと分かれ道があるから、そこまでいくよ」
「はい」
そこまで…ということはきっとそれ以上は進まないということだ。山南さんがそれ以上先に行ってしまっているのなら見逃すという新選組の、土方さんと近藤さんの意志。
沈みかけだった太陽はいつの間にか姿を隠し大きな月を取り囲むように星空が広がっていた。