「さぁ、まだ時間があるからここ
を探索するといい」
おじいちゃんは、さすってくれていた手を
私の肩に優しく置いて
かすれた声で言った
「はい、そうします」
やっと落ち着いた私は
おじいちゃんの言う通り
この大きいお屋敷を探索することにした
嬉し涙で濡れた頬を両手で覆い
私はまず和樹を探した
大きいお屋敷のどこを探しても
和樹は全く見つからなかった
むしろ、私はさっきから同じ道を
行ったり来たりしていた
とんとん、シュッ
その音は、小さい頃から隣の家から聞こえた
バスケットボールのつく音と
ボールがネットに入るなんとも言えない
音だった…
その音のある場所に辿って行った
「あ」
和樹がまだまだ新品の制服のまま
お屋敷の庭?でバスケをしていた
その姿は、滑らかで無駄な動きは何一つない
ボールだけを見ていて楽しそうだった
「おお、悠香終わったのか!」
こちらに気づいた和樹はボールを抱えたまま
走ってきた
私も和樹の方に走っていく
「なんだ、泣いたのか?」
和樹は私の顔を見て、少し驚いた顔で
聞いた…
「ううん、大丈夫だよ」
私は、和樹の顔を見ず下を向いて言った
「お前の大丈夫は大丈夫じゃねーんだよ
なんかあったらいつでも言えよ」
和樹は持っていたボールを私に
サッと渡して言った
「うん、ありがとう
やっぱり和樹はいい人だね」
優しい和樹に、また迷惑を掛けたなと私は思った
「お前の家はなんでもあるな
いーよなー」
和樹は、話を逸らすように大きな声で言った
その顔は少し赤らんでいた
「そうかな?まだよく分からないな、
そのバスケットゴールもここの家の?」
和樹がさっきまでシュートをうっていた
バスケットゴールを指差して聞いた
「そーだよ、喜道さんが言ってた」
「そっか、でも私の家の中にバスケやる人
いないんだよね」
お兄ちゃんは陸上だし、私は水泳だったから
「来ていいかな…
俺、この家の方がいつも練習してる公園より
近いし」
和樹は、真剣な顔で私に聞いてきた
「いいんじゃない?私の家族みんな和樹の事
知ってるし!」
和樹との付き合いは長かったから
大丈夫だと思う
「でも和樹の家からここまでどのくらいなの?」
ずっと隣の家だった和樹が少し遠いだけでも
なんだか、さみしく感じた
「4、5分だよ」
案外近かった
「なんだ、そんな遠くないんだ!
よかった」
「遠いだろ、朝おばさんがお前の名前呼んで
起こしてる声が聞こえなくなるのは
さみしいけどな!」
和樹が笑いながら冗談を言ってた
「うわ
聞こえてたんだ…」
少し、反省した
「喜道さんから聞いたんだけど、
お前、倒れたんだってな…
なんかあったか?」
顔が変わったように
和樹が心配そうに聞いた
「なんか新しい学校で
疲れてるんだと思う
でも大丈夫だよ」
「また、お前大丈夫、大丈夫って
昔っからお前は大丈夫って言っては
倒れたり熱出したりするんだよな
俺たち幼馴染なんだから
少しは俺のこと頼れよ」
背の高い和樹は私の
頭を優しく叩きながら
言った
「うん、ありがとう和樹…」
そう、いつも意地悪な和樹が優しくなると
私は妙に緊張して恥ずかしくなる
「そういえば、なんで和樹ここにいるの?」
私、喜道さんに連れられてここに来たのに
「あー、お前が知らない男に連れて行かれて
たから引き止めたんだよ
てめー誰だよ、降ろせ
って、んで話聞いた」
止めてくれたんだ…
「そっか…んじゃ和樹は私が起きるまで
ずっとそばにいてくれたんだね」
「喜道さんがいなくなるからだよ!」
急に慌てて言い出した
和樹は照れ屋さんだった
そうだと思ってた
「お前、身体に気をつけろよ」
と言って背中を結構な強さで叩く
「痛っ!」
和樹はニカニカ笑った顔で
大きな門に向かって
走っていく
「またねー」
私はその場で手を大きく振った
「幼馴染くんは、いい人ですね」
振り返ると喜道さんが走り去って行く
和樹を見ながら話した
「そうですね
昔からいい人なんです
少し、バカですけど」
微笑みながら私も和樹の背中を見ていた
「いい人か…
あの子はかわいそうですね
早く気づいてあげればいいんですが」
「え?何か言いましたか?」
喜道さんが何か言っていたみたいだが
私にはわからなかった…
「いいえ」

