「悠香様、着きましたよ」
怖くて怖くてずっと下を向いていた
ガチャ
車のドアゆっくりと開いた…
今日色んなことがあって
貧血が起きていたのか
1人で立ち上がることが出来なかった
ふらふら立ち上がろうとして
いた私を喜道さんは
ヒョイっと持ち上げた
私、お姫様抱っこされてる?
私の意識は朦朧としていた
「ん、痛っ」
貧血で意識がなかった私は、起き上がろう
としてが頭がずきずき痛かった…
「悠香、起きた?」
声は男の人にしては、高く
楽しそうな声…
「か、ずき?」
目を開けた先には
新しい制服なのに
もう着慣れていているというより
新しい制服なのにもう着崩してる
和樹が不安そうな顔をして
私の右手を和樹の大きな手で握っている
「なんで……?
ここどこ…」
喜道さんに持ち上げられた所まで
記憶があったのにそこからは
全く覚えていない…
「新しい、お前ん家だってよ
でっっけーよな!」
と言ってなぜか自慢気に鼻を膨らます
「和樹、手が痛い…」
和樹の大きな手は私の小さな手を
ぎゅーっと潰しているように
強く握られていたのか
私の手はピリピリと痺れていた
「ぬぁっ!わるいっ」
握っていたことを忘れていたのか
和樹は私の手を話すと
「誰か呼んでくる!」
と言って走ってどこか言ってしまった…
「よいしょ」
まだ身体は重く頭は痛かったが
起き上がった
なにここ………
広いな………
その部屋は、私の部屋よりも10倍ほど大きく
白とピンクが基調とされていた。
左は窓にウサギや花などが彫られていたり
レースのカーテンもあった
部屋の中には
白のドレッサーや今まで見て来たことの
ないほど大きいテレビ、3人座っても余り
そうなソファが3つ
さっき和樹が出て行ったドアの他に
もうひとつ、ドアがあった
私は、ベットから降りてふわふわの
スリッパを履きその謎のドアを開けた
ピカっと自動でオレンジの照明がついた
私が目したのはマネキンに飾られてる
真っ白なウエディングドレス
だった
「きれい…」
思わず口に出して言ってしまった
ウエディングドレスは私の立っている
丁度真っ正面にあって
そこだけ
なぜか雰囲気が違ったように思えた
どうやらここは縦に長いクローゼットのようだ
くつや洋服はもちろん
ネックレスやピアスなども
きれいに並んでいた
一生の中で着れないような色とりどりの
ドレスや着物もあった
「悠香様、ここにいらっしゃいましたか」
綺麗な服たちに見とれていた私は
その声で我に返った
「あ!喜道さん」
私をここまで運んでくれたのはきっと
この人だろう…
「うわ、すっげーな
お前これ着んのか?」
喜道さんの後ろからウエディングドレスを
指した和樹が話してくる
「私のじゃないよ!
私こんなに服持ってないし」
こんなに服無いし…
ウエディングドレスなんて
まだ私15だよ…
「いえ、こちらにある物全てが
悠香様のものでございます」
喜道さんは、両手を大きく広げて
答えた…
「それより、悠香様
直義様が呼んでおります」
「え、
おじいちゃん来てるんですか?」
1度も会ったことのないおじいちゃん
期待と緊張のまま、私は喜道さんの
後ろを着いて行くことにした
「つか、ひろくねっ?!」
和樹が私の後ろで独り言を話していた
確かにここは広い
私がさっき寝ていた部屋を出ると
長く広い廊下があった
廊下には金色の花瓶が等間隔で置いてあり
床は赤の刺繍の絨毯が敷かれてあった
窓を見ると噴水の様なものがあり
その周りは通れる様になっていて
おとぎ話に出てくるお城のようだった
「ここです
どうぞ」
喜道さんが止まったドアはさっきの
私が寝ていた部屋のドアよりさらに大きく
ドアノブは龍の顔になっていた
カチャ
ドアを開けたとき
昔懐かしい匂いがした
昔、お父さんと遊んだ
あの煙草の匂い…
でもなぜか少し違う
この匂いは煙草と高級な香水が混ざったよう
な匂いがした
おじいちゃん……
私は立ち尽くした
絶望とかそんな理由ではなく
ただ、おじいちゃんに会えた
嬉しさで立ち尽くした
おじいちゃんは、口元がお父さん
にそっくりだった
ニカっと笑うその笑顔は
私の大好きな笑顔だった
おじいちゃんの手元には
匂いの通り煙草があって
持ち方もお父さんと同じで
5本全ての指を使っていた
「おお、来たか
悠香」
声はかすれていて
でもゆっくりとした安心感のある声
「君は、悠香のボーイフレンドか?」
おじいちゃんは和樹を見ながら言った、
「ち、違います
俺はただの幼馴染です」
大きく首を横に振った和樹は
少し顔が赤くなっていた
「そうか、では少し外してくれないか
悠香と大事な話をするんだ
どこかで待っているといい
喜道、頼むぞ」
おじいちゃんは、少し微笑んだ顔で和樹
に手を振った
「わかりました!
悠香がんばってこいよ!」
なぜか和樹が私を応援?してくれた
「かしこまりました」
喜道さんは、おじいちゃんに一礼をして
和樹を案内するため和樹と部屋を出て行った
パタン
ドアの前で立ち尽くした私は
おじいちゃんの顔をずっと
見ていた…
「まぁ、悠香座りなさい」
ニコニコした顔でおじいちゃんは私を
向かいになるように座らせた
「おじいちゃん……
始めまして」
まだ驚きを隠せない私は
この言葉しか出てこなかった
「初めてじゃないぞ?
悠香が小さいときに1度会っている
でも、悠香には記憶が無いのか…」
「はい…」
二人きりの部屋で沈黙が続いた…
おじいちゃんは、持っていた煙草を灰皿に押し当て今までのニコニコした笑顔から急に顔つきが変わり真剣な表情で私を見た
「悠香に謝りたいことがある」
「私は、海外で世界一のホテルを建設すると言う夢を叶えるため日本で金を貯めながら息子や娘を成人まで育てた後
妻と一緒に海外に移り住んで仕事に熱中した
仕事に熱中になり過ぎて、すっかり日本の家族や妻の事を後回しにして来た
私は、妻が亡くなって近くの安いホテルに住むことにした
そこはボロボロだったが居心地が良かった
また行きたいと思えた
気づいたんだ
どんなにいいホテルを作っても周りのスタッフが笑顔や親切でなければいいホテルではなくなる
スタッフがホテルを作るんだと
そこで夢を叶える為に頑張って来た
私の原点である日本に帰って
日本のホテルのあり方を考えよう
でももう私は仕事を出来る年ではない
だから息子にこの計画を託した
悠香のお兄ちゃんである龍には
何度か会っていた
未来の社長を任せるために
でも悠香のことは、ずっと写真でしか
見たことが無かった
光政(私のお父さん 翠蓮寺 光政 スイレンジ ミツマサ)
にも社長を任せるため
3年くらいずっとアメリカにいてもらった
悪いな…
ずっと嘘をついていた訳ではないんだ
言う機会が全くなくて
ズルズルと悠香も高校生になってしまった」
おじいちゃんはずっとごめんごめん
と謝っていた…
「おじいちゃん何てホテルなの?」
私の知っているホテルだった…
というより私でも知ってるホテルだった
私が普段から
ここ、キレイだね…
私もこういう所家族で行きたいね
と言っていた有名なホテルだった
私は気づいた…
おじいちゃんはすごい人なんだ
と。
「だから、これからは不自由ない生活を悠香達には送らせたい
だから、今日から悠香はここに住むといい」
そんなに不自由があった生活をしていた
訳ではないけど……
「おじいちゃんは、ここに住むの?
みんなは?お父さんは?お母さんは?
お兄ちゃんは?」
期待した…またみんなで他愛もない話を
したいと思った
「みんな、ここに住むぞ
ご飯はみんなで食べるんだ
日本に建設するホテルの仕事もここでやるだろう」
「ここに住む!」
小学校低学年の子のように大きな声で
答えた私は、涙が溢れていた
嬉し泣きだ
満足そうにおじいちゃんは
私の横に来て背中を優しく
さすってくれた…

