「比奈子ちゃん、まだ帰ってこないんだって？」

　雛祭りの時期は観光客も増えるけれど、多いのは地元に住んでいるお客さんだから、比奈子が行方不明になっているということももう知れ渡っているみたいだ。

「警察に連絡はしたんだろ？」

「なーに、きっと友達のところにでも行ってるんだって」

　カウンターに座ったおじさん達が、口々に言ってくれる。お父さんもにこにこしながら話しているけれど、ものすごく心配しているのはよく伝わってくる。

「……志帆ちゃん、熱燗もらえる？」

「はーい」

　温めたお酒を、お店の奥の方にいる近所のご家族のところまで運んでいく。

「試験、いつからだっけ？」

「うわー、それ聞かないで！」

　英語の点数が壊滅的なんだけど、そこを追及されると困ってしまう。

　苦笑いして誤魔化そうとするけれど、「もっと勉強頑張りなよ」なんて笑われてしまった。