頷く少女を眩しそうに目を細めて見た後、それでもワタシは諦めませんから、と返して治臣は仮想世界から去って行った。

「篠崎さん!」

 紅夜は名を呼んで駆け寄り、折りたたまれた扇子に目を向ける。
 折りたたまれても輝くことを止めないそれは月夜に光って幻想的な様子を作り出していた。

「覚醒したんだな……」

「はい。美原さんが言っていたように、メモリーズキューブは私の気持ちに応えてくれました」

 紅夜は双子に挟まれて笑みを浮かべる優希をじっと見る。
 千夏に似ていると思っていたら意外と自分に近いものを感じたり。
 穏やかに微笑む今はまた違う一面に思えて胸が温かくなる。
 紅夜は胸に広がる熱を感じながら、久しぶりの感覚に体が震えた。
 薫と出会った時とは違う、双子と会った時とも違う。
 それはまるでかつての治臣や千夏と過ごしていた時のような。
 同じ物ではない、しかし心に何かが宿ったのは確かだった。

(こんな気持ちになるのは久しぶりだ……)

 刀をキューブに戻した紅夜が優希との距離を縮め。

「美原さん? ――っ!」

 優希を正面から腕の中に閉じこめた。
 驚いて短い声をあげる様子を横目で眺め、腕の力を強めていく。
 突然のことに慌てる少女にクスリと笑いをこぼし、耳元でそっと告げる。

「オレ達を選んでくれてありがとう――」

「美原さん……」

「正直、真実を知ったら君は見習いを辞めると思って覚悟していた」

「紅夜さん……」

 優希の後ろに立っている春陽に名を呼ばれ、大丈夫だと言う意味をこめて笑みを向ける。

「だからすごく嬉しい。改めてこれからよろしく、優希」

「え……」

 名字ではなく名前を呼ばれ、優希は目を丸くする。
 優希を腕の中から解放した紅夜は眉を下げて笑った。

「ダメか? 正式な仲間になるなら名前で呼びたかったんだが……」