「死にたくないです。でも忘れたくもありません。だから私は生きて帰ります!」

「!」

 優希は治臣の前で扇子を動かした。
 すると強い風が起こり、治臣は飛び退いて空中へと避難する。
 やがて巻き起こった風は空へと向かい、厚い雲を突き抜けていった。

「すごい……」

 何かが起きるようにと祈りをこめた一振りは優希の予想をはるかに上回り、ポカンと扇子を見つめてしまう。
 同じく威力に驚いた治臣は素早く我に返って歯を噛み締め、扇子を睨んだ。

「厄介な物だ。今ここで破壊しなければ……!」

「――そんなことはオレ達が絶対にさせない」

 治臣はもう一つのキューブも変形させて脇差しも手にして力を入れる。
 治臣の頭は優希の武器を破壊する、そのことでいっぱいになっていた。
 そのため、背後から声をかけられるまで人の気配に気づけなかった。
 勢いよく振り返れば、そこには紅夜が刀を持った状態で治臣を睨んでいたのだ。

「……っ、もう結界を壊したのですか」

「ロックキューブにキューブ所持者を閉じこめる力があるとはな。新たな情報だった」

「失敗しましたね……。早々に破られるくらいなら全員移動させてこの場で結界に閉じこめればよかった」

 睨み合う二人を見ていた優希のそばに人の気配を感じ、上を見る。
 奏太と手を繋いだ春陽が翼を羽ばたかせ、優希の横に着地した。

「優希ちゃんは自分で決めたんですから狙わないで下さい!」

「まあ狙っても僕達が返り討ちにしますけど」

 奏太と春陽がそれぞれ優希の左右に立って治臣に向けて言う。
 治臣は舌を鳴らして忌々しい表情を浮かべた後、冷たい笑みを浮かべて優希達を順番に見た。