(――え……?)

 キューブが熱を持ち、ほんのりとした温もりを指先に伝える。
 そして輝きだした。

「篠崎さん……!」

 優希の様子も見ていた紅夜がいち早く気づいて名を呼ぶ。
 キューブの覚醒の前兆にみんなが気をとられた瞬間を一人は見逃さなかった。

「――ぐあ……っ!」

 キューブの光に気をとられたほんの一瞬、薫は盾ごと払われる。
 受け身をとり負傷を免れたものの、結界前は無防備に。
 複数の声があがる中、治臣は長い刃を横に振り抜いた。
 ガラスが割れるような音をたてて紅夜が作った結界を壊し、そして動く間もない対象者の胸に刃を突き刺した。

「今夜はワタシ達の勝ちです。――あなたの思い出を、北上治臣により封じさせていただきます――」

 対象者の体を通り、刺さっているように見える刀身がまばゆい光をはなつ。
 光がおさまると女性は目に力を宿して踏切前を去って行った。

「残念でしたね。思い出の保護、どうやら新しい覚醒も上手くいかなかったようで」

 目を細めて口元を引き上げる治臣の言葉に、優希はポケットからキューブの入った袋を取り出して中を見る。
 キューブは光や熱がなくなり、覚醒前の状態へと戻っていた。

「戻った……?」

 目を丸くする優希とは違い、紅夜は思考を巡らせる。
 自分の時や薫、奏太と春陽も覚醒が始まればそのまま覚醒を済ませて途中で戻ることはなかった。
 ――まさか。紅夜が思い当たることは一つ。

「篠崎さん、君は思い出を封じられているのか?」