「メモリーズキューブよりロックキューブの方が力が強いこともあるんだ。だから、メモリーズキューブの力を破って思い出に鍵をかけることが出来てしまう時もあるの」

「鍵がかかってしまうともう思い出せないんですか?」

「人に言われて思い出すことはあるよ。でもね、すぐに忘れてしまうし自発的に思い出すことはないの。まわりからはただ一時的に忘れていたり、辛いことを乗り越えたんだと思われるけど、ロックキューブの力で鍵をかけた対象の思い出は閉じこめられていて、ないのと同じようなものだから……」

「春陽!」

 話しながら高度を下げていると薫の大声が聞こえ、背後に人の気配を感じてすぐに春陽の体に衝撃が走る。
 春陽の体は弧を描いて飛ばされ下降していく。
 それと同時に優希の体も急速に落ちて行った。

(落ちる……!)

 耳元で聞こえる風の音と感じる重力に優希は目を閉じてしまう。
 地面への衝突という未知の痛みに恐怖しているとふいに何かが体を受け止めた。

「……?」

(痛くない……?)

 優希が恐る恐る目を開けると、誰かの腕で横抱きされていることに気づく。
 風に揺らされた長い黒髪が頬をくすぐり、優希は顔を動かした。

「美原さん……」

 ――腕の持ち主は紅夜だった。

「間に合ってよかった」

 紅夜は声を震わせながらも腕はしっかりと優希を支え、地面へと向かう。
 地面へと足をつけ、優希を立たせると鋭く上方を睨みつけた。

「やっぱりお前か、山下冬馬(やましたとうま)」

 紅夜の視線の先にはブレザーを着た少年がいた。
 耳が隠れるくらいのウェーブがかかった茶髪を揺らし、茶色がかった垂れた目が緩慢に瞬きをする。

「ボクのことー、忘れてもらっちゃ困りますよぉ?」

 長い棍棒に継手を挟んで長さの違う棒がついた武器――フレイルを持ち、冬馬は後ろをちらりと見た。
 飛ばされた春陽は翼を使い、地面への衝突を回避して奏太の近くに立っている。

「不意打ちしたのにー。つまらないなぁ……」

 ゆっくりとした話し方の内容とは対照的に表情は楽しげだ。