優希は見習いを始めてから、二日に一度のペースで紅夜達の活動を見学していた。
 紅夜達はほぼ毎夜活動しているが、慣れない優希への配慮である。
 見学も五回を過ぎ、少しずつ活動を見慣れてきた頃、優希は春陽から生徒の相談を一緒に聞こうと誘われた。
 春陽と奏太の相談屋は有名で、二人に混じって自分がいては相談者も話しにくいのではないかと辞退しようとするも、大丈夫と腕をつかまれる。
 そして有無を言わさぬ勢いで、春陽は帰り支度をしていた優希を放課後の教室から連れ出した。





「奏太くん! 優希ちゃん連れて来たよー」

 優希を連れ出した春陽は二年生の教室が近い、空き教室の扉を開ける。
 空き教室のため室内は閑散としていて、椅子を逆さまにして机に乗せられた物が数組みあるだけ。
 奥に窓へと背中を預けた奏太が立っており、数秒入り口へと視線を向けた後、一カ所に寄せられた机と椅子を持ち上げ始める。

「どこに行ったかと思えば……。今日は相談者が数人いる予定だから、早く机と椅子を用意しておいて」

 奏太の言葉にそうだった、と春陽が慌てて一組みを移動させ始める。
 それを見て優希も春陽と同じ行動をとった。
 教室の中心辺り、扉側に対面するように奏太と春陽が座る。
 優希は春陽の隣に腰を下ろし、春陽と奏太の間ほどに二人と向き合うように奏太が置いた机と椅子がもう一つ。

「思ったんですけど、篠崎さんはこの後予定大丈夫なんですか?」

 ふいに奏太が春陽越しに優希へと顔を向けて問いかける。
 急に声をかけられたために肩をはねさせてしまいながら、優希は大丈夫ですと返した。

「春陽は思いつきで行動することが多いですから、無理な時は断って下さいね」

 隣で本人なりに睨みつけている顔を横目で見ながら、気にとめないように続けた奏太に優希はぎこちなく頷く。

「奏太くんひどい――」

「――あの、すみません……」

 春陽が抗議の声を上げている中で教室の扉が開かれ、春陽はピタリと抗議を止める。
 髪を耳の後ろで左右に結んでいる小柄な女生徒がおずおずと教室の中へと足を進めて来た。