「たっだいまあああ!!!」

勝のばかでかい声がまだ開店前のBARの中に響いた。

「おっ、おかえり、緋音。」

マスターの辻がいくらか勝より遅く入ってきた緋音に対していった。

「なんだよ!マスター、俺にも言ってくださいよー!!!」

だが、辻は勝のことを無視して緋音のまたさらにあとに帰ってきた朔に対して聞いた。

「お、朔。どうだった?」

朔がネクタイを緩める仕草がカッコ良すぎて男である大門が惚れていた。

「どうもこうもないっすよ。とりあえず承諾は得ましたけど…」

「ならよかったじゃねえか。」

相変わらず無表情で言った。
辻の笑った顔を見たことがあるのは多分課長である小野寺だけだろう。

辻も、過去に辛い経験をした。


…というより、ここにいる皆が辛い経験をしている。

朔、緋音の事件。

小野寺の事件。

凛子、辻の事件。

大門の事件。

そして、なにより…

一番うるさい勝でさえも、ある事件があった。

勝の笑顔やうるささはその事件後からだった。


…まあ、この話は後々するとして…


まずは、組織だ。


「ね、朔!!!」

「ん?」

緋音が朔を呼び出し、こそこそと話をしていた。

「あたしね、学校は休めてよかったって思うんだけど…」

「うん?」

「あのー…」

緋音がはっきり物事を言わないときは大抵反対されるとわかっている時だ。
特に朔相手だとかなりはっきり言わない。

「そのー、ね!あのー…」

「早く言えよ」

ぶっきらぼうに朔に言われたときは一番緊張するのだ。

「外に出たり!って…だめ、だよね…??」

少し上目遣いで、かわいく言った緋音。
しかし朔は全くそういうのに鈍感なためあまりわからず、いつものように…

「だめにきまってんだろ。」

といった。

これはさすがに緋音にとってきつい。

外に出れない=家にひきこもり

この意味わからない方程式が緋音の頭の中をぐるぐる回っていた。

「…って、一歩も?!」

「当たり前だろ!!!学校休むのになんでそんなわがままが通用すると思うんだよ!!ばかか!」

また朔の説教が始まった。

「でもでもでも、あたしそしたら外の空気吸えなくなって死にそう〜」

「大丈夫だ、空気の入れ替えくらいする」

「で、でもでも!!あたし、そんな閉じ込められてたらノイローゼになっちゃうかも!?」

「心配するな、そんなストレスは溜めさせない」

「う、でも!!」

「何も心配すんなって、俺らがついてるだろ?」

「うううう!!」

何も、朔に聞かないことがわかって緋音は拗ねるように自分の部屋に閉じこもった。

「あいつからとじこもってんじゃねえか、」

「そりゃ、朔が言い過ぎなんだよ!!あー、緋音ちゃんかわいそすぎる…」

なんて、同情している奴もいるがほぼここにいる人は緋音自身のせいだときづいてるから敢えて何もいわないのだ。

そのことに気づいていないのはやはり勝だけであった。

「じゃ、じゃあ!!俺は夕食つくってくるッス!!凛子さん、行きましょっ!!!」

少し気まずい雰囲気を大門が元気良く遮ってみんなに言った。
凛子もわかったといいながらキッチンの方に行った。
辻もそろそろ開店するため、カウンターの方へと準備しに行った。

BARに住んでいる以上、夕食は自分の部屋か、2階の広々とした中央スペースのリビングで食べるかだが、大抵は中央スペースのリビングで食べている。
食べ終わった人から自分たちでそれぞれ食器を洗ってBARの手伝いをしに行くのだ。
マスターの辻、あとは大門や凛子の3人は夜中まで働くがそれ以外の人達は皆好きな時間にプライベートタイムにはいってよいのだ。

緋音は19:00~22:00で歌を歌ったりパフォーマンスを披露する。
勝と朔はイケメンという理由で女性に人気なため、客寄せとして成果をあげている。
凛子は強気な女性ということもあってMっ気の強い男たちから毎回指名が入る。
もちろん、ここはキャバクラでもホステスでもないから指名が入っても意味が無いのだ。
BARでは、喋ることが多い。
しかし、彼らは決して自分が刑事だということをバラしてはいけないのだ。
たとえ、それが…どんなに仲がいい人でも。





「よし、そろそろ開店するぞ。みんな来るときは着替えてこいよ。緋音にも一応声をかけておけ。」

「「「はい!!!」」」

マスターである辻の言葉で勝が「OPEN」と書かれてある板をドアにかけ、朔は大門が作ってくれた夕食を急いで2階へ持っていった。