「准、テキトーに入っておいて〜」
2階に上がりながら、美沙は声を掛けた。
「おう」
靴を脱ぎリビングへ向かった。
久しぶりやなぁ・・・美沙ん家。
ここでよく、ママごとやらされたな。
美沙はいつもお母さん役で、あの時から料理が好きで、おばさんの真似をしてたなぁ。
俺は、いつも子供役。一度でいいから、お父さん役したかったなぁ。
お医者さんごっこもしたなぁ。美沙が医者で、俺が患者。
久しぶりの秋月家を見渡して、懐かしんでいた。
「准!何ニヤニヤしてんの!?」
うわっ、美沙!もう着替えたんか?
「いや、別に」
「怪しいなぁ・・・やらしいことを考えてたんやろ!この欲求不満男!」
「じゃあ、その欲求不満男にさっきみたいなこと言うなよ!!
それに・・・彼氏がいるのに冗談でもあんなこと言うな!」
言ってしまった・・・。
あー神様。生きて帰れますように!
「准、あんた何を勘違いしてるん?私、彼氏いないし」
えっ?
あれ彼氏じゃないん?
もしかして別れた?
「あ、あの・・・あいつ、アキラって奴は?
この前も送ってもらってたし、それに・・・普段履かないようなスカート履いてあいつと一緒に居てたやんか・・・」
最後の方は、美沙とアキラの姿を思い出すのも嫌で、聞き取れないくらい小さな声になっていた。
「アキラくん?彼は同じクラスなだけやし・・・って、准、あんた私たちが一緒にいるところどこで見たん?」
「駅やけど・・・」
「声掛けてくれたらよかったのに」
「向かいのホームやったから・・・」
同じホームでも声は掛けられへんかったと思うけど・・・
あんな仲よさ気な雰囲気を出されたら・・・無理やし。
「そっかぁ。ならしかたないね。
あの時は、友達の楽団のコンサートへ行くところやったの。
本当はもう一人私の友達も一緒に行く予定やったんやけど、
急遽行けなくなったから、アキラくんと二人で行ったの」
そっかぁ・・・納得。
ちょっと待てよ?
アキラは彼氏じゃないって言ったよな?
まじっすか!
彼氏いてないんやぁ!
チャンス到来!
いや、ちょっと待てよ。
ただのクラスメートのことを『アキラくん』なんて呼ぶか?
新たな疑問が生まれていた。
アキラは彼氏じゃなくても、名前で呼ぶくらいやから、仲のよい友達・・・
つまり彼氏に最も近い存在なんではないか?

