「はぁ、はぁ・・・」


俺は一体何を必死に追い掛けてるんや。


真冬だというのに汗だくになっていた。ゆっくり家に入ると、いつものように、母さんと美沙の母親が楽しそうに話しをしていた。


「あら、准、帰ってたん?」

「あぁ、ただいま」

「おばあちゃん家からみかんが届いたから食べる?」



何も知らない母は、普通に話しかけて来たが、それに答える余裕なんてなかった。


「准くん、そんな真っ赤な顔してどうしたん?」


あんたの娘を追い掛けて走ったなんて言えませんよ。


「いや、駅から走って来たから・・・」


「汗かいてるなら、拭かないと風邪引くわよ!」


「わかってるよ」


投げ捨てるように母に言うと、部屋に向かった。


俺が立ち去ったリビングでは、母親たちの笑い声が再開していた。

部屋に入るとコートを脱ぎ、汗だくの服を着替え、ベッドに寝転がり、天井を見つめた。


浮かんでくるのは美沙の顔。


やっぱり泣いてたよな・・・。


なんかあったんかな?


まさか、電車で痴漢にでも遭ったんじゃ・・・って、あいつなら腕の1本でもへし折りそうやしな・・・。


あいつの泣き顔なんか見たの初めてかも・・・。


小学校の卒業式の時に大泣きしてたな・・・

中学受験したメンバー以外は同じ中学に行くのに、あいつ泣いてたよな・・・

まっ、もらい泣きとか本人は言ってたけどな・・・。



それにしてもなんで泣いてたんや・・・?


まさか・・・。


俺と綾香ちゃんの様子を見て泣いたとか?


そんなわけないか!


いつの間にか眠っていたようで・・・起こされたのは、1時間ほど経ってからだった。