「准?」


逃げることができないことがわかったのか、美沙は動きを止めて、俺の名を呼んだ。


その声が優しくて、それが余計に俺の心を刺激した。


そして、俺は重い口を開いた。


「なぁ・・・ちょっとくらい・・・俺の気持ちをわかってくれよ・・・」



美沙の髪に顔を埋めて、途切れてしまいそうな声で訴えた。



「准・・・」


美沙が俺の名前を呼んだ瞬間、勢いをつけて回り、美沙の上に跨がった。


「美沙・・・」


自分の下にいる美沙は、突然のことに、ただただ目を丸くして驚いているようだった。


「准、どうしたん?」


なんで、そんな優しい声で俺の名前を呼ぶんや。


なんで、こんなことされて怒らへんのや。


自分の顔がどんどん歪んでいき、心も歪んでくるような感覚に陥っていた。


「心配する相手が違うんじゃないの?」


自分の耳に入った声は冷たく、その声を聞いた美沙が怯えているのもわかった。


「何を言ってるん?」


怯えた顔で聞き返す美沙の顔にも欲情する自分が情けなかった。


「健吾のことが好きなんやろ?」


「はぁ?意味わからんし・・・」


「もういい!黙れ!」


そう言った瞬間、美沙の目から涙が零れて、自分がやってしまったことを悔やんだ。


やってしまった・・・。


俺は、美沙の上から離れ、部屋の隅に美沙に背を向けて、あぐらをかいてため息をついた。


「美沙・・・・・・ごめん」


「准・・・」


「とりあえず、そっとしておいてくれるか?」


消えてしまいそうな声で、呟いた。


「わかった」


そう言うと、美沙は部屋から出て行った。



ドアが閉まる音と共に、俺の目からは涙が零れた。




俺は、最低や・・・・・・



あんなことして・・・



酷いこと言って・・・。



もうあかんかもしれへん・・・。




大きなため息をついて、床に寝転がった。