「ぅわあああああぁぁぁぁっ!!」
六月の始め。
屯所内に悲痛な叫びが響いていた。
叫び声に肩を震わせている美奈がいた。
つい先日五月の末に、炭薪商を経営している枡屋喜右衛門の存在を突き止めた監察方の山崎烝と島田魁。
新撰組は会津藩への報告と捕縛に取り掛かった。
その時、武器や長州藩との書簡等が蔵から発見された。
そして捕縛された枡屋は今、蔵で幹部たちの拷問に遭っていた。
あの中に平助君がいて、拷問をしていると思うと心が痛む。
「大丈夫かな…。」
そんな呟きが虚しく宙に舞っていく。
蔵の周辺には近づくな、と言われた美奈は蔵から一番遠いところの掃除をしていた。
美奈の頭には一つの単語が浮かんでいた。
“池田屋事件”
そこで沖田さんは倒れ、平助君は額、永倉さんは親指のつけ根。
奥沢さんは死亡。
安藤さんと新田さんも、重傷を負い、後日、奥沢さんの後を追う。
新撰組だけではなく、長州側にも被害が及んだ大きな事件。
世に名を轟かせる大切な事件。
それと同時に新選組が激動の時代の渦に嫌でも巻き込まれるきっかけとなった事件。