「もう、平助君に、会えないの、かな?」
ぽつりと呟く。
その呟きは部屋の中で静かに溶けてあっけなく消えてしまった。
しばらくして、鬼が朝餉を持ってくる。
「ありがとうございます。」
私は受け取った朝餉を食べ始めた。
私はふと思ったことを口にする。
「ねぇ、あなたの名前は?」
「僕の名かい?
僕は煉(れん)。
これから、幸せに暮らそうね。」
その一言で改めて思う。
やっぱり、こうなる運命だったんだ、と。
どこかで戻れることを願っていたのかもしれない。
いきなり飛び出して、脱走者扱いになっているかもしれないのに。
「煉さん、私、私っ…。」
「いいよ、無理しなくても…。
君の気持ちが整理されてから、それからゆっくり話してごらん?」
そう言って微笑む煉さんに小さく頷き、深呼吸する。
「私、大切な人を殺めて飛び出してきたんです。
木花開耶姫の生まれ変わりは代々、鬼と夫婦になる決まりがあるのでしょう?
私、飛び出してきたところに恋仲を置いてきてしまった。
まだ、諦めがつかないの。
夫婦になるのは、少し待ってもらっていいですか…?」
私は俯いたまま煉さんにそう伝える。