鬼は背中を優しくさすり、「大丈夫、大丈夫。」と言って、私を落ち着かせてくれる。

でも、その手は大切な、大切なあの人の手とは全く違っていた。



もう、戻りたくないって思うのに、まだ戻りたいという気持ちがあった。

矛盾している自分の気持ちに、呆れてくる。




どっちにしろ、鬼のもとに行かなければいけなかったのだ。
その期日が少し、早まっただけ。



平助君のこと、あきらめないとな…。




そこで私は意識を手放した。


――――――――――

屯所では、美奈がいなくなったことで騒ぎが起こっていた。
刀を放ったまま走り去っていった彼女を皆で心配する。

浪士に切られてないか?
怪我はしていないか?

安否がわからない。



消息を絶ってしまった美奈に平助は一言も口にしなかった。
そのかわり、顔が青ざめている。


「なぁ、土方さんよぉ…。

美奈のこと、どうする?

もし、あいつが帰ってきたときに、脱走者として見られていたら戻れないだろう。
何か言づけてしばらく探したほうがいいんじゃねぇのか?」


永倉がそう言う。

芹沢暗殺後、走り去っていった美奈を原田に追わせた。
あいつはまだ帰ってきてねぇ。
それさえわかれば…。



そんなことを考えていたら、息を切らせて、原田が帰ってきた。
皆、何も言葉を発さない原田の顔色を伺うが、見つけられなかったのが一目でわかった。



「まぁ、座れ。」と原田を促す。


皆、近藤さんの部屋に集まっていた。


「美奈は、安否がわからねぇ。

あいつは隊士には親の病で一時帰郷したとする。
消息が不明なことは誰にも口外するな。

あいつはきっと京にいるはずだ。
巡察の時に美奈も探してくれ。」



そう伝えると、皆は頷き、それぞれの部屋に戻っていった。







――無事でいてくれよ、美奈。



そう皆は願って…。