驚いて、あたしは足を止めた。
そして、玲汰先生の方を振り返る。
玲汰先生のカオは、相変わらず無表情で、なにも読み取れなかった。
ただ、その綺麗な瞳だけがあたしを捉えていた。
「……いるんじゃない?子供を大嫌いな親くらい」
わざと、震える拳を握りしめて平気を装った。
玲汰先生にそんなことを言われて傷ついた心を隠すために。
玲汰先生はやっぱり、何も掴めない表情だった。
あたし、このカオが苦手だ。
こっちは何も掴めないのに、あたしの全てを見透かしているかのようなカオだから。
「それさ……」
そこまで言って、玲汰先生は言葉を消した。
次はなにを言われるのか。
身構えたあたしだったけど、玲汰先生はそのまま考えるように黙り込んでしまった。
そして、一度外した視線を再び合わせると、
「やっぱ、いい。先に入ってて」
と、無愛想に言った。
視線を合わせられただけで緊張していたあたしだけど、その言葉を聞いて思わず固まってしまった。
だって玲汰先生は、身構えても、緊張しても、特に何も言ってこなかったから。
「う、うん……」
予想外の言葉に、あたしは驚く。
でもあたしは踵を返して、リビングへと続く廊下をゆっくり歩き始めた。
まるで、ロボットのように。
言われたからそうしただけで、あたしの頭の中は未だに混乱していた。
思っていた言葉と、全く違ったから。
一瞬あたしに興味を見せたのに、またその興味は失せたのだろうか。
それとも、興味とかいう問題じゃないのだろうか。
今のは、担任としてだったのだろうか。
理解ができない。
ただ、一つだけ分かった。
なにも言われない。
もう、緊張しなくていい。


