まだ、あたしは玲汰先生のことを何にも知らない。
玲汰先生が時々見せる、悲しそうな顔も。
いつも面倒臭いと言いながら、本当は怖がっている、〝何か〟のことも。
あたしはこんなにも傍にいるのに、玲汰先生のことを何一つ、知らないんだ。
そう思うと、不思議と胸が痛んだ。
悲しくなった。
そんな感情を抱いた自分に驚きながらも、写真を見つめ、考える。
玲汰先生も昔は、こんな笑顔が出来ていたんだ。
たった十年。
そのたった十年の中で、玲汰先生になにが起こったのだろう。
どんなことを経験したのだろう。
今の玲汰先生になったことに、この女の人は関係しているのかな?
頭の中でそんな思いを駆け巡らせていると、ふと足音が聴こえてきた。
「玲汰先生、上がったんだ……あっ」
そのことで、あたしは我に返る。
ヤバい。
紙を元の場所に戻さないと。


