夏希が死んでから、両親は早く帰宅するようになった。
理由は分からない。
気になりはしたが、それをあたしはあえて聞かなかった。
その日は委員会があり、それがかなり長引いた。
そのせいで、帰りがいつもより遅くなったんだ。
帰宅したのは、午後六時半。
大分疲れたため、ため息を吐きながら玄関のドアを開けた。
すると、
「なにしてるんだ!」
体がビクッと揺れる。
リビングからお父さんの怒鳴り声がしたからだ。
お父さんが怒鳴るのは、あたしを叩いたあの日以来。
というより、あたしの記憶の中では、あの日を含め二回目だ。
「なによっ!少し残業しただけじゃない!!」
またリビングから、今度はお母さんの声が聞こえる。
これはいわゆる、夫婦喧嘩ってやつか。
あたしは玄関でそっと会話の内容を聞いていた。
「あの日から、残業はしないって決めていただろう!」
「そうだけど、少しくらいいいじゃない!」
内容を聞く限り、あの日……きっと夏希が死んだ日から両親がしなかった残業について喧嘩をしているようだった。


