「奈々!」

彼女は割れた窓ガラスに突っ伏したまま

俺の呼びかけに反応がなかった。

隣の席の男はベルトをしたまま足元に丸まっていた。

俺は奈々のシートベルトを外して

今は床になった窓に両足を踏ん張り

彼女の体をゆっくりと持ち上げた。

意識がない人間がどれ程重たいものかを噛み締めた。

頭を打っていると思い

なるべくそっと抱きかかえた。

俺はまた座席をまたぎながらバスの前方へ向かった。