洗面所の鏡に、切美が、映っていた。


笑っていた。




剛は何がどうなっているのか、さっぱりわからなかった。夜、いつもどおりに布団で寝ていたのに、目が覚めると、まだ暗い部屋の中、寝間着姿のまま、いつのまにか洗面所の鏡の前に立っていたのだ。


身体の感覚がない。首から上だけが、自由に動かせる。


鏡を見て、剛は目を疑った。


切美の顔に、化粧がほどこされていたのだ。


ありえない。化粧品はすべて処分したはずなのに。


その疑問に答えるかのように、鏡の中の切美は右手を前にさしだした。


それを見て、剛は、ふざけんな、そんなのありかよ、とつぶやき、歯を食いしばった。


右手には、赤と青の色彩ペンが握りしめられていた。机の上のペン立てにさしていたものだ。


切美の化粧は、顔に色彩ペンを塗ったものだったのだ。