あの不気味な痴戯の日から二ヶ月がたった。


剛は切美に対して、あるいらだちを感じていた。


切美はあの日以降も、剛の身体をのっとって、いろんな場所へ遊びに行っていた。そのことは別にかまわないのだ。切美の遊ぶ様子を意識の中からながめるのは、こちらとしても楽しいのだから。


ところが最近、切美は剛の意識がない間に、つまり眠っている間に身体をのっとり、勝手に女装して行動するようになったのだ。


なんと切美は、剛が女装をする前から、剛の身体」をのっとることができるようになったらしい。


朝起きると、いつの間にか化粧がほどこされている。剛は不快だった。知らないうちに自分の身体が動き回っているなんて、夢遊病のようで気味が悪かった。


ひどいときには、目がさめると、女装姿で見知らぬ県外の場所に立っているなんてことがあった。あのときはアパートへ帰るのにとても苦労した。


さすがにこのときばかりは切美に文句を言った。


「もうおれが寝ている間に、勝手に動くのはやめてくれ」


「いいじゃない。この身体はわたしのもでもあるんだから」


「いや、この身体はおれのものだ。おまえはあくまでおれの一部なんだ。勝手なことをするな」


切美はすねたような声をあげた。


「そんなひどいことを言うなら、消えるわよ」


それを言われると、剛はこれ以上言葉をつづけられなくなる。そして切美を失うさみしさを想像し、恐ろしくなって結局鏡にむかってあやまることになるのだ。