男らしい名前に反して、剛は小さい頃から、女性のような顔立ちをしていた。


幼少時代には、実際に女の子と間違えられることが多かった。


本人はそれがいやだったので、できるだけ男らしい外見になろうと努力した。毎日外で遊んで、日に焼けようとした。中学、高校と柔道部に入って体を鍛えた。しかし二十歳になった現在でも、外見の女性らしさは薄まらなかった。肌はなかなか黒くならず、やわらかくて綺麗なままだった。体も柔道で鍛えたわりには、細くひきしまっており、まるで舞踏家のようだった。


さすがに女と間違えられることはなくなったが、化粧をしてみるとこの有り様だ。


早く顔を洗おうと思って、剛は水道の蛇口をひねった。流れだす水を両手にためながら、何となくもう一度鏡を見てみた。そして、また苦笑した。


「うわ、やべえ。おれ、すげえ美人じゃん」


つい、そのまま見とれてしまった。


上を向いた睫毛、アイシャドウを塗って、際立った瞳、小さな鼻、桃色の口紅をつけた可愛らしい唇。やがてその頬がほんのりと染まった。


そのとき、水が一滴顔に散って、剛は我にかえった。


「何やってんだ、おれ」


あわてて顔を洗い、化粧を落とした。手のひらで溶けてゆく口紅やアイシャドウを見て、剛はもったいなさそうな顔をした。