洗面所の鏡に、見知らぬ女が映っていた。


剛はおどろきの声をあげてあとずさった。すると同時に、鏡の中の女も口をひらいてあとずさった。


「あれ?」


いぶかしげに思って、鏡に顔を近づけてみた。女も同じ表情で、こちらに顔を近づけてきた。


その女は、自分だった。


剛の顔には、化粧がほどこされていた。


思い出した。昨晩部屋で仲間と飲んでいたときに、酔っ払った女友達にいたずらされたのだ。そのとき剛は深酔いして動けなかったため、抵抗できなかった。


どうやらそのまま眠ってしまったらしい。さっき目をさますと、部屋に仲間はいなかった。剛が寝たあと、みんな帰ったのだろう。


「それにしてもなあ」


剛は鏡に映った自分を見て苦笑した。まるで本物の女のようだ。もとの顔がわからないくらい、濃く化粧をされていたので、一瞬自分だとわからなかった。