あたしは反射的にそちらに目を向ける。



高級そうな仕立てのスーツ(きっとイタリア製)を着込んだ、いかにも「会社役員です」って感じのロマンスグレーな髪の紳士たちが、目を瞠るようにして入り口を凝視している。




なんだなんだ?


あたしは少し身を乗り出して、皆の注目の的を確かめようとする。




目を凝らすまでもなく、みんなが何に対してざわめいているのか、すぐに分かった。






ーーー柔道着!?





そう。


白い柔道着を着た猫背の男が、このラグジュアリーな空間に、のっそりと入ってきたのだ。



シュールすぎる………!!




しかも、背中までありそうなぼっさぼさの長髪を、後ろ頭でゆるいおだんごにしている。




なに、あいつ!!



間違って高級ホテルに迷い込んできたとしか思えないけど!!




唖然としたように口をぽかんと開いて、みんなが柔道着男の動向を見守っている。



男は、注目を集めていることに気づいているのかいないのか、ゆっくりとした足取りで、ブランドスーツの海の中を、柔道着で泳いでくる。





……………え。



え、え?



ちょっと、ちょっと待って。




柔道着男……こっちに歩いて来てない!?



うそっ、まさか!?


もしかして!?





「…………あの、あなたが藤沢さんですか?」






ぎゃあーーーーっ!!!