奥のほうにいた部員たち全員の視線が、いっせいに入り口のドアに向けられた。




………うーん、この空気は、紛れもなく。







「あーっ、たっちゃん!!」







天下のモテ男・たっちゃんのお出ましだ。






どっしりと座っていた三回生の先輩たちが身を乗り出して、甥っ子にでも会ったかのような表情で、たっちゃんに手を振る。



二回生も首を伸ばしてたっちゃんの姿を確認し、にこやかに笑う。



一回生たちも顔をぱっと輝かせて、「たっちゃんさん!!」と立ち上がった。





部室の外にいた部員も、たっちゃんに続いてぞろぞろと中に入ってくる。



練習していた先輩バンドまで、演奏をやめてたっちゃんに注目しているのだから、驚きの一言だ。






そして、一番の見物は、たっちゃんの言動。




みんなの注目を一身に集めたたっちゃんは、一面の花畑のような笑顔を満面に浮かべた。






「みなさん! おはようございます!!」






踊るような仕草で大きく両手を広げて、みんなに向かって声高らかに宣言する。







「たっちゃんですよ!!


たっちゃんが来ましたよ~~!!」







……………あほか。




あたしはげんなりしてうなだれた。





でも、そんな浮かない顔をしているのは、30人近い部員の中であたし一人だ。