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電車を降りて、駅の西口から出たあたしは、そのまま商店街のほうへと歩き出した。
といっても、個人経営の小さな商店が並ぶだけの、アーケードもないようなしがない商店街だ。
あたしがバイトをしているのは、『みさわ書店』という本屋だ。
うちの最寄り駅から3駅ーーー大学と家の間のちょうど真ん中くらいにある小さな町の商店街の一角にある。
わりとこじんまりとした店で、バイトも多くて二人ずつしか入らないくらい。
店長は気さくな人だし、通学定期で通えるから交通費も浮くし、働きやすくて、とても気に入っている。
「おはよーございまーす」
あたしは従業員通用口のドアを開けて、倉庫兼控え室になっている部屋へ入った。
「おぅ、ミサキちゃん。おはようさん」
中には店長がいて、今日一緒に入る予定のもう一人のバイトーーータカギさんは、まだ来ていないようだった。
「店長、これ、頼まれとった本です」
「おー、ありがとさん! 娘が読みたがっとってん、助かるわー」
「いえ、あたしこそいつも貸してもろてますし」
「ほんならまた今度オススメの本もってきたるわ」
「楽しみにしてます」



