素直になりなよ、ドラゴンくん!


そういえば、変な夢を見たのだ。
夜中にアグアグさんと呼ばれたものだから、眠気眼で僧侶に近づき、僧侶がいいこいいこと撫でて、気持ちよくなり、そのまま寝に入った。

そんな、夢な、わけ、だ、がーー

「ち、違うからな、僧侶!」

「へ……」

いきなり起こされた僧侶。手をつき起き上がろうとしたが、木の欠片に手をついては大変だとドラゴンに抱き上げられる。

「……、きゃー、夜食にされる!」

「食うか、阿呆!」

ひょいっ、と安全地帯に下ろされた僧侶に、ドラゴンは言う。

「ち、違うだろうな!」

僧侶がハテナを浮かべるのは当たり前だった。

「そ、その、先ほどあったことだ。わ、我が輩が、貴様にいいこいいこされるなど!」

「しましたよ」

ドラゴンの拳が、床をえぐった。

(な、なんたること!高貴な我が輩が、犬猫の用に扱われ、あまつさえ、この僧侶と添い寝してしまうとは!我が輩は高貴なる種族。カンストした無敵キャラ!そんな我が輩が、ひ弱な僧侶にーー)

「アグアグさんって、顎の下撫でると、ゴロゴロ音が鳴るんですね」

無意識の生理現象に打ちのめされるドラゴンだった。

「や、やめろ、戯けが!ぜんぜん、嬉しくなどない!」

本当は顎よりも頭がいい。

「えっ、イヤでしたか?」

「あ、ああ!嫌だ!目当ての素材が出るまで、同じ敵キャラを倒し続けるあのプレイ並みにやめてほしいな!半日以上も同じ悲鳴を聞くこちらの気にもなれ!」

「そんなに、嫌なことだったなんて……。分かりました、もう撫でません」

「え」

「嫌なことをしてしまい、ごめんなさいっ」

「あ、え……」

「イヤなことあった時は寝るのが一番です。アグアグさん、寝て下さい!お布団かけますね!」

木片をバサバサした布団がかけられる。

「い、いや、貴様の布団が、そもそも、寝る場所は我が輩が」

「私は、隣の部屋を使わせてもらいます。もしくは、ロビーのソファーでも」

部屋を出ようとする僧侶に布団を被せる。

「きょ、今日は寒い!」

「え、勇者の村は万年春ぽかな陽気ですから、そんなはずは」

「寒いのだ!」

「わわっ!」

ドラゴンにより布団みの虫にされた僧侶は、ドラゴンの背中に。

ドラゴンがうつ伏せになれば、ベッド代わりにはなるだろう。端から見れば、亀の子状態の僧侶だが。

「あの、アグアグさん」

「我が輩には周囲にいる仲間のステータスが5%ほど上がる特殊能力がある。だ、だから、さ、寒いのも、ヘッチャラデアロウ」

無理なこじつけでも、納得してしまうのが僧侶。

「ほんとに、アグアグさんあったかい」

ほんのりとした温もりに、うとうとしてきた。

寝ぼけ眼で、僧侶はドラゴンの頭を撫でる。

ゴロゴロと規則正しい音は、ある種の子守歌。

居心地がいい。とても良いのだけど。