キスなんて贅沢はいらないから

晩御飯を食べ終えて、お兄ちゃんと2人でテレビを見た。

バラエティとは違ってなんだか真面目な番組。

博士みたいな人が科学的な何かをつらつらと喋ってる。

つまらない。

でも、お兄ちゃんはじっと画面を見つめて黙っていた。

学校でも習わないようなことまで突き詰めるのがお兄ちゃん。

私は全然面白くなかったけど、お兄ちゃんが興味をもっているものなら、

私だって興味を持ちたかった。

興味を持つなんて無理な話だけれど、同じ番組を隣で見てるということが、

私にとっては大事なこと。

ああ、ここで私とお兄ちゃんがこの番組について意見を言い合えたりしたら、

どんなに楽しいだろう。

お兄ちゃんみたいに賢かったならよかったのに。

私の頭なんて並みの並み。

兄弟なのにこんなにも違うなんて、くやしいな。

でも、いいや。

私が賢くないから、たまにお兄ちゃんは勉強を教えてくれるんだもん。

どんな学校の先生よりもわかりやすい。

毎回テストの点数がちょっといいのは、お兄ちゃんのおかげ。

「うーん。何を言ってるのか分かんない。」

突然のお兄ちゃんの衝撃的な発言に私は拍子抜けして、けらけらと笑った。

「なんで笑ってんの?いろはだって分かんないでしょ?」

「そ、そんな真剣な顔して見てたら絶対に理解してると思っちゃうよ!」

お兄ちゃんはポカンと口を開けて、訳がわからないような顔をしている。

「ええ?難しいから真剣にみてたんだよ。結局分からなかったけど。」

「お兄ちゃんにも分からないことなんてあるんだ。」

「何言ってんの。当たり前だよ。」

お兄ちゃんは本当に真面目なようで、不思議なようで、面白い。

こうやって笑ってるときが一番幸せ。

今日も案外平和だったのかもしれないな、なんて思ってしまった。