キスなんて贅沢はいらないから


洗面所に行って雨で少し濡れた制服を脱ぎ、部屋着を着る。

何気なく、鏡を見た。

酷い顔だった。

口をへの字に曲げて、眉も下がっている。

今にも泣きそう、そんな感じ。

変なの。

自分の顔が気持ち悪くて、顔を洗った。

私の肌に当たる冷たい衝撃が、自分を冷静にしてくれた気がする。

大丈夫。

お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃん。

洗面所を出てダイニングテーブルを見た。

今日の晩御飯もいつもと変わりなくとても美味しそうだった。

「今日はカレーだよ。」

お兄ちゃんはふわりと微笑んで言った。

「おいしそう!早く食べちゃお。」

自然に笑い返せたかな。

あまりお兄ちゃんと目を合わせないようにして席に座る。

カレーのいい香りがして、さっさとスプーンを持った。

「いただきます!」

一口目、甘口でとろとろのカレールーが口いっぱいに広がる。

さすがお兄ちゃんだな。

料理が上手なお兄ちゃん。

そういうところも、惹かれちゃうんだ・・・。