キスなんて贅沢はいらないから

台所に立ち料理をしているお兄ちゃんは、

あぁ、と言ってくるりと振り向いた。

「学校の子に、借りたんだ。天気予報見たのに忘れちゃって。」

学校の子?友達?

「そう・・・。」

だめ。

これ以上深入りして聞いたら私が悲しくなるんだ、多分。

もう忘れるんだ。

「バカだよね俺って。あれ、なんでそんな怖い顔してるの?」

お兄ちゃんに言われてはっと気づいた。

きっと酷く歪んで醜い私の顔がお兄ちゃんには見えてるんだろうな。

「ちょっとビックリしただけ。あと、お兄ちゃんはバカじゃないよ。」

バカなのは自分だ。

こんなことで私は怒っているんだから。

怒ってるのかな?

わからないけど。

ただ、心がもやもやして決して心地よくはない。

「バカだよ、俺がピンクの傘なんて、おかしいもんな!」

そう言ってお兄ちゃんは笑った。

「そうだよ。おかしいよ。変だよ。」

私は声を震わせて、下を向く。

私って子供みたい。